スタッフコラム | こけしのよろこび



ダーニングには針と糸と
ダーニングマッシュルームがよく使われる

でも、わざわざダーニングマッシュルームも
買わなくたっていい
ジャムの空きびんでもいい
おたまだっていい
それがダーニングのいいところ

あぁそうだ
わたしの実家には古いこけしがあった
ガラス戸の引き出しに飾られたこけし
それを持ってこよう・・・



こけしを見つけると、底には34年前の日付と
鳴子温泉と書いてあった
祖父と祖母が絵付けしたこけしのようだ

ちょっとかしてね〜というと
エシカルな時代の思わぬ抜擢に
こけしも嬉しそうに見えた


ちくちくちくちく
糸だけに集中していくと
だんだんとくぎ付けになる

たて糸が何本も並んだすき間に
よこ糸が交互に通っていく



後ろにいるたて糸が
「次は私の出番だ」と
言っているかのように今度は手前に現れる
すごく好きな瞬間だ

それだけのことなのに
元気をもらえる気がする

なんだか人の後ろに下がっている自分にも
出番がきたような気になる


ちくちくちく
よこよこよこ

仕上がりを見ようと
すぽっとこけしからダーニングしたニットを外すと
こけしのあたまにたくさんの針の引っかきキズ

あらごめんねと頭をなでて
くすっと笑えた

すっかり今日も
こころが満たされた





【もくじ】
第1話 ダーニングのまほう
第2話 こけしのよろこび




profile





山木 紗百合

「SAIFUKU」の企画・運営担当。ニットの産地のお隣にある小さな田舎町で育ちました。3歳の息子がいて、毎日わちゃわちゃと揉まれながら幸せに過ごしています。目標はよく噛んでたべること。得意な楽器はリコーダー。