スタッフコラム | きずを癒す



慌ただしい1日を終えて
ほっとひと息つける夜の時間

いつものキッチンも
少し照明を落とすと
自分だけの部屋になる



テーブルの上に、手をかけ始めたばかりのニットと糸を広げると、
心もすっと静まっていく

ふと、母のことを思い出す
今日のお繕いは、母の服


着古したセーターやスウェットを手に取ると、
母の気配がありありと感じられる
セーターについた毛玉や、シミさえも私には大切で
クリーニングに出したときも、しみ抜きはしないでもらった

当然そのままで着ることはできなそうだけど
その跡をそのままにダーニングで繕いたかった



押し入れに、四十年近く眠っていた服
今こうして針を入れることで、
母の時間と私の時間が少しだけ重なる気がする


ちくちく、ちくちく
ひとはり、ひとはり針を入れるたびに、
穴を埋めながら、記憶はむしろ広がっていく



穴や傷の意味が浮き上がって母の人生がそっと重なる
そして、自分の心に空いた穴も少しずつケアされていく気がした


手元に広がるのは、
不完全で、ふしぎな形
でも、それでいい

完成を急がず、ただこのひとときを楽しむ
そうして針を動かすたびに、対話が静かに続いていく







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山木 紗百合

「SAIFUKU」の企画・運営担当。ニットの産地のお隣にある小さな田舎町で育ちました。3歳の息子がいて、毎日わちゃわちゃと揉まれながら幸せに過ごしています。目標はよく噛んでたべること。得意な楽器はリコーダー。