Pデザイン研究所の加藤歩美氏によるニットコラム。様々な角度から、ニットについて語ります。




 

ニットを音で表現すると、どんな音がしますか?
ふわふわ、もこもこ、ぬくぬく、ふわもこ…なんだか柔らかい音が聴こえてきませんか?
しかし「モヘヤニット」だけはニットの中でも特に柔らかい素材であるにも関わらず、全く違う音が聴こえてくるのです。


 

モヘヤは反骨精神の象徴

私が「モヘヤ」と聞いてまず頭に浮かぶのは、Vivienne Westwoodのボーダーセーター。
タータンチェックやストライプ、ツイードなど、彼女のデザインにはイギリスの伝統的な文化を象徴する「模様」や「素材」が多く取り入れられていますが、「モヘヤ」もその一つ。
これらを過激なパンクファッションに使ったヴィヴィアンの服は、パンク現象が始まった1970年代のロンドンの街でパンクキッズ達の象徴的なスタイルになります。

国旗や女王のプリントが引き裂かれたTシャツ、ナチスの鉤十字の腕章、タータンチェックのボンテージパンツ、ライダース、安全ピンやスタッズ、そして赤と黒のボーダー柄のモヘヤセーター。
さらに彼らはモヒカンやキツいメイクで武装しているため、もはやコスプレに近いのですが、こうした過激な表現になった理由は、当時の社会や権威や偽善に対しての反骨精神、批判の意思表示が強く込められていたから。

背景には1970年代の英国の経済不況による生活水準の低下、先の見えない混沌とした空気が深く関係していたと言われています。日本でいえば東日本大震災後の学生たちによるデモが、同じような空気を孕んでいたように思います。

そして英国パンクといえばSEX PISTOLS。
たった2年で解散していますが、世界のパンクバンドの中で最も有名なのではないでしょうか。
ヒットチャートで1位を獲得するも、その曲名が黒く塗りつぶされてしまったという伝説があります。
彼らはVivienne Westwoodのパンクファッションに身を包み、無政府主義、破壊、暴力といった挑発的な歌詞とパフォーマンスであっという間にパンクのシンボルとなりました。
写真のSEX PISTOLSの「NEVER MIND」のLPは、私にとって大切な1枚です。


 

モヘヤはグランジ精神の象徴

もう一つ、思い出さずにいられないのはNIRVANA。
こちらも10代の頃から大好きなバンドです。ボーカルのカート・コバーンといえばダメージデニムとスニーカー、そして「モヘヤ」のカーディガン。

1991年に2ndアルバム「NEVER MIND」の大ヒットで世界的なスターになってからも、彼のそのスタイルは変わりませんでした。それは(NIRVANAの音楽がグランジ・ロックというジャンルだったことから)グランジファッションと呼ばれ、音楽と共に若者たちの間で流行しました。
ちなみにグランジ・ロックは、パンクとメタルを足して2で割ったようなハードロックです。

彼は音楽業界の商業主義に対して反発し社会に求められた姿を演じることはせず、見た目だけでなく生き様もありのままのスタイルを貫き通したのですが、そんなエピソードを聞くと彼を真似たファッションが流行したことも頷けます。
もし私があと5年早く生まれていたならリアルタイムでNIRVANAに夢中になっていたし、彼が27歳という若さで亡くなった時にはショックで泣いていたに違いありません。 

 

Smells like teen Spirit

こうしてみると、モヘヤって全然ふわふわしていないし過激だと思いませんか?
ロックを聴いて育った私にとって「モヘヤ」といえば、Vivienne WestwoodとSEX PISTOLS、カートコバーン(NIRVANA)なんですよね。
毎年冬の時期にモヘヤのセーターを目にすると、激しい音が聴こえてくるのです。
若くて、荒々しくて、不安定で、エネルギー溢れるカッコいい音です。興味があれば是非聴いてみてくださいね。




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LAB.1 ニットで「心」をモードチェンジ

 


加藤歩美 Kato Ayumi
Pデザイン研究所/デザイナー

新潟市在住。1985年新潟県燕市出身。長岡造形大学視覚デザイン学科卒業。 主な仕事はグラフィックデザイン・パッケージデザイン・エディトリアルデザイン・WEBデザイン・空間デザイン・商品開発など。2016年よりminoのデザイン制作に携わる。ライフスタイルで欠かせないのは音楽とヨガ。
(Pデザイン研究所)